きっかけ
こんにちは。熊田です。
2020年のコロナ真っ盛りの中、新しく始めたことがあります。
それは、「タンパク質の立体構造を3Dプリンタで出力する」こと。
今ではだいぶ上手にできるようになってきました。私のスキルだけが向上していて、周りがついてこれていない感は否めませんが、、、(笑)
ここでは、何故このようなことをやろうと思ったかのきっかけや、その時の苦労を記録しておきます。
今では、セッティング値も大体わかり、失敗もそれほどしなくなりましたが、ノウハウだらけでやはり、2年間費やした甲斐があったなと感じています。
これを自己満足とするのか、研究に積極的に利用するのか、または、アートとして捉えるのかは使う方の捉え方次第なのですが、私個人としては、上記全て満足できるものではないかと感じています。
きっかけは、2020年のコロナでした。2月末に予定されていたイタリア出張が直前でキャンセルになり、ゲリラ的な卒業式で卒業生を社会に送り出した後、大学がロックダウンされ、研究室に誰もいなくなった。
学生はもちろんのこと、秘書さんや研究員さんもいない。自分しかいない。
自分一人で実験をするかとも思ったが、試薬も機材も入ってこないんじゃぁどうしようもない。
ネットが使える。そしてアマゾンは一応動いている。そこで思いついたのが、「タンパク質を3Dプリンタで作る」というプロジェクトだった。
傍から見たら、暇人の道楽にしか見えないだろう。実際、自分自身もこれほど時間的余裕と、物質的な制限がなければ全く考えもつかないアイデアであった。
はっきり言ってば、単なる思いつきである。しかし、そこから2年たった今、我がラボでは、当たり前のように3Dプリンターがシャカシャカ謎の物体を造形している現実がそこにある。
人生は本当に面白い。
皆さんは、新しいことを始めたいと思ったときにまずは何を使って調べるだろう?
そう、ピンときて、直感でGoogle先生に聞いてみた。
タンパク質、3Dプリンタで調べるといくつかのサイトが出てくる。既にやられているヒトもいるみたいだ。
ということは、俺にもできるか。。。という軽いノリで始めた。
ネット検索で分かってきたこと
私が参考にしたのはこのサイトです。大阪大学の先生もやられているんですね。それ以前の先駆者もいたり、新学術領域のサイトもあったようなのですが、実践的ではないので参考にはしなかった。
3Dプリンター ソフトウェア www.protein.osaka-u.ac.jp
この他にも色々見た結果、分かってきたことがあります。当時でてきていたことと、できていなかったこと。
できていたこと。
- タンパク質の3Dプリンタによる造形は基本的に可能
- Pymol、Chimeraの3Dデータを出力できる。←これがアツい!
- 市販の3Dプリンターが使用可能。←これがアツい!
- カラーフィラメントによる簡易的な色分けは可能
- Surfaceモデルの出力はできてそう
できていなかったこと。
- 1アミノ酸レベルの厳密な色分けは見られない。←これがやりたかった!
- フルカラーインクジェットタイプの造形は見られない。←これがやりたかった!
- Cartoonモデルの出力は、見られない。←これがやりたかった!
ということで、造形するついでに、注目するアミノ酸をマークしたい、Cartoonモデルでかっこよく作ってみたい。
そして、何より、自分で作った抗体の立体模型を手にとって眺めてみたいという純粋な気持ちが背中を押してくれました。
世の中、自分が思っている以上に進んでいるんだな!と思う反面、自分が理想とするサービスって、なかなかないもんだなと。
もうね、ドラえもんのテーマが頭の中で回っていましたよ。
「あんな夢いいな、できたらいいな、あんな夢こんな夢いっぱいあるけど〜♪」っと。
コロナパンデミックで忙しかった毎日が急に終わり、そこで頭に入ってきたものは、「短期的な成果よりも、長期的に行き続ける技術を今、磨こう」という考えでした。
あとは、完全にノリと勢いです。
意を決してフルカラー3Dプリンター購入
そして、ついにフルカラー3Dプリンター購入。
色々調べた結果、インクジェットタイプのフルカラー3Dプリンターって、手が届くのは、XYZ printingのダヴィンチ Color Miniしかありませんでした。
他社製は、ウン百万円もする代物でして。
https://www.amazon.co.jp/dp/B07R44QN8Z?tag=note0e2a-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1
アマゾンのレビュー、☆1つ。。。そんな3Dプリンター、買って大丈夫なのか???
何度も自問自答しましたよ。でも、結果的には、買って大正解でした。
この値段でフルカラーの3Dプリンティング+ペインティングができるのは、この機種だけですからね。
1個の造形が成功するまで
最初にデフォルトでついていたモデルを造形してみました。なんか、変なお面みたいな造形物が出来上がりました。
結構きれいに色付けされていました。これはいける!
そう胸が高鳴ったのを覚えています。
そこから最初の単鎖抗体の造形物が完成するまでに3ヶ月はかかりました。
理由は、今思えば簡単なことで、セッティングでした。
でも、当時の知識ゼロの私にとっては、全くわからなかった。Webを見たり、Youtube見たり、本を買ったり、、、。
結局自分が欲しい情報はどこにも載っていなかった。
そう、自分でなんとかするという気概と、時間と、環境がなければ、結局自分が望むべきゴールには到達しない。。。ゴールどころか、中継点にすら到達しないのだと実感しました。
世はコロナまっただ中。ニューヨークで感染が爆発し、東京の感染者が100人に。東京も死体の山でいっぱいになると言われていたときです。
今から思えば100人の感染者なんて大したことないですが、当時はみんなビビって家に引きこもっていた時期でした。
あまりにヒトが動かなすぎて、原油の先物価格がマイナスになっていました。^^;
そんな世の中が大混乱の中、一人、研究室で「あーでもない、こーでもない」と試行錯誤を繰り返していた。
難しかったのは、ポリペプチドの太さの調節、サポートのセッティング、色合いなどなど。あとは、ちょっとした干渉をどうやって防ぐかとか。言葉にはうまく言い表せない問題がいくつも有りました。
隣に経験者がいれば気軽に聞くことができるし、何より、業者に来てもらえれば、お金で解決することだってできる。
当時は、只今、コロナ真っ盛りで誰も頼る人がいなかった。
1日1個セッティングして、失敗を繰り返し、ちょっとずつ修正して今の形があります。
我ながらよく頑張ったと思う。ある意味、コロナじゃなければそんな時間は取れなかったと思うし、集中も続かなかったと思う。
あれから2年、今ではこのプリンターで造形できること、できないことも何となく分かるようになってきた。
今でも「なんとなく」です。
当たり前の話だが、何事も「できる範囲」で行えばできるし、「できない範囲」で行えば、できないのである。
そのレンジを見極めるのが、職人だったり専門家だったりする。いくら3Dプリンターの知識があっても、やったことない人には作れないよね。タンパク質。
やれるもんならやってみな!ノウハウの塊だから。
私のようにCADの知識が全く無くても、やり方、できる範囲を経験として備えている人には簡単にできてしまう。
批判を恐れずに言うと、タンパク質の造形において、CADのスキルや知識は全く必要ない。
これを知っているだけでも回り道する必要がないので何百万円に相当する価値がある。
つまり、3ヶ月踏ん張ってよかったということだ。
タンパク質を3Dプリンターで作りたいと思っている人が世の中に何人くらいいるのかは分からない。
とても少数だろう。しかし、私が声を大にしていいたいのは、作った人にしか分からないタンパク質の新しい発見、魅力、美しさがある。
百聞は一見にしかずというが、
百見は一造にしかず、百眺は一触にしかず (これ、名言)
である。今や、私のラボには必須の機器となった。
フルカラープリンターの導入後、ノンカラーのものも2台導入した。
フル活用している。これまで、絨毯爆撃のように行っていた試行錯誤の実験が、我々のセンスの一撃で解決できそうな期待すら覚える、そんな3Dプリンター君である。
ここから何が学べるかは、おいおい紹介するとして、本稿でいいたかったのは、
- トライ&エラーに効率を考えてはいけない。
- 時間を作って粘り強く付き合えば、見えてくる世界がある。
- できる/できないは、経験することでしか見えてこない。
- 触れるものは、見るだけものもよりも得られる情報が多い
こんなところだろうか。
これができたからといって、論文が書けるわけでもないし、お金が稼げる訳でもないが、我々が普段やっている研究の精度、確度が従来よりも30%くらい上がっているのは確かだと思う。
費用対効果にすれば、相当高い。なんせ、私の自分の研究に対して思い描いているイメージが150%くらい変わってしまったのだから。
これは、自分にとっては大きな革命である。明るい未来しか思い描けない。
これからも色々なタンパク質をバーチャルでもリアルでも作り上げて世の中に貢献していきたいと思う。ではまた。